
会社を辞めた翌日から、あなたは健康保険の「無保険者」になりかけています。退職日の翌日に在職中の保険証は使えなくなり、何もしなければ全国どこの病院でも10割負担です。
ここで多くの人が「任意継続」と「国民健康保険」のどちらにするか決めきれず、20日という期限を1日でも過ぎて任意継続の権利を失います。
採用コンサルとして14年、退職前後の相談を受けるなかで、この健康保険の切り替えだけで年間数万円から十数万円の差が出る人を何人も見てきました。
この記事は、退職後の健康保険を任意継続にするか国民健康保険にするか、あなたのケースで損しない選び方を、期限・金額・扶養の3点で判断できるように整理したものです。
退職後のお金まわりは健康保険だけで完結しません。失業保険(雇用保険の基本手当)の受給条件と金額の決まり方、退職金の受け取り方と税金、そして全体の段取りは退職後の手続き90日タイムラインにまとめてあります。健康保険は、この退職後マネーの最後に残った穴です。ここを埋めれば、辞めたあとに損する要素はほぼ消えます。
退職後の健康保険を整理する人の多くは、その先に再就職を控えています。健康保険の損得を片づけたら、次の職場の相場確認も無料登録で同時に進めておくと、ブランクで損をしません。具体的な使い分けは記事の中ほどと末尾で案内します。(※本記事には広告(PR)を含みます)
- 任意継続と国民健康保険の保険料が「何で決まるか」と、退職時に全額自己負担で約2倍になる仕組み
- 申請期限「退職日の翌日から20日以内」を1日でも過ぎると任意継続の資格を失う理由
- 会社都合退職なら国保が大幅に安くなる軽減制度(雇用保険受給資格者証の離職理由コードで判定)
- 扶養家族が多い人・前年所得が高い人それぞれで、どっちが得かが逆転する分岐
- 保険料0円で済む「家族の被扶養者になる」第3の選択肢と、両方を電話2本で試算する手順
退職後の健康保険には4つの選択肢がある

退職後の健康保険は「任意継続」「国民健康保険」「家族の被扶養者」「次の会社で加入」の4択。空白を作らず、20日以内に決めるのが鉄則です。
退職して次の会社にすぐ入らない人が選べる健康保険は、大きく4つあります。多くの記事が「任意継続か国保か」の2択で語りますが、実際には保険料0円で済む第3の道があり、ここを知らずに損する人が後を絶ちません。まず全体像を押さえてください。
| 選択肢 | 保険料の決まり方 | 向いている人 |
|---|---|---|
| 任意継続(健康保険の任意継続被保険者) | 退職時の標準報酬月額ベース。会社負担分がなくなり全額自己負担で在職時の約2倍が目安(上限あり) | 扶養家族が多い人。前年所得が高く国保が高額になる人 |
| 国民健康保険 | 前年の所得+世帯人数(均等割)。自治体ごとに異なる | 前年所得が低い人。会社都合退職で軽減が効く人 |
| 家族の被扶養者になる | 保険料0円(収入要件あり) | 当面働かない人。収入見込みが要件内に収まる人 |
| 次の会社の健康保険に加入 | 新しい給与の標準報酬月額ベース | 退職後すぐに転職する人(空白期間が短い) |
退職日の翌日に転職先へ入社する人は、空白がないので次の会社の保険にそのまま加入します。問題は、しばらく無職期間がある人です。
この場合、任意継続・国保・家族の被扶養者の3つから選びます。そして任意継続には「退職日の翌日から20日以内」という短い申請期限があり、ここを逃すと選択肢が国保と被扶養者の2つに絞られます。
⚠️ 注意
「どれにするか後で決めよう」は危険です。在職中の保険証は退職日の翌日から使えません。決めずに病院へ行くと、いったん全額(10割)を窓口で払うことになります。
あとから加入手続きをすれば差額は戻りますが、手元の出費は大きくなります。退職が決まった時点で、辞める前に方向性を固めておくのが正解です。
任意継続とは何か?保険料が約2倍になる仕組み
任意継続は退職後も最長2年、在職時と同じ健康保険に残る制度。ただし会社負担分が消えて保険料は全額自己負担になり、在職時の約2倍が目安です。
任意継続(健康保険の任意継続被保険者制度)は、退職後も在職中に入っていた健康保険組合や協会けんぽに、本人の希望で最長2年間そのまま残れる制度です。
保険証の種類が変わらないので、かかりつけ医や扶養家族の使い勝手はほぼ在職中のままです。ここまで聞くと得に思えますが、保険料の負担が大きく変わります。
在職時の約2倍になるのは会社負担が消えるから
在職中の健康保険料は、会社と本人が半分ずつ折半して払っています。給与明細に引かれている健康保険料は、実は本来の保険料の半額です。
任意継続になると、この会社負担分が消えて全額が自己負担になります。だから保険料は在職時の約2倍が目安になります。
給与明細で月1万5千円引かれていた人なら、任意継続では月3万円前後をイメージしておくと現実とのズレが小さくなります。
ただし青天井ではありません。任意継続の保険料は、退職時の標準報酬月額と、その保険者(協会けんぽや各健康保険組合)の平均標準報酬月額の、低いほうで計算されます。
協会けんぽの場合はこの平均値に上限が設けられているため、在職時の給与が高かった人ほど「2倍までは上がらない」ケースが出てきます。高収入だった人ほど、任意継続の上限効果で国保より割安になりやすいのはこの仕組みのためです。
2022年改正で途中脱退ができるようになった
2022年1月の健康保険法改正で、任意継続は本人の申し出による途中脱退が可能になりました。これより前は、保険料を滞納するか就職するまで原則2年間抜けられず、「やっぱり国保のほうが安かった」と気づいても動けませんでした。
改正後は、任意継続をいったん選んでも、年の途中で国保へ切り替える道が開けています。前年所得が高いうちは任意継続で安く抑え、翌年に所得が下がって国保が安くなったタイミングで脱退する、という二段構えが取れるようになったのは大きな変化です。
💡 ポイント
任意継続を選ぶ最大のメリットは保険料の上限と扶養です。扶養家族(配偶者や子)を保険料負担なしで引き続き加入させられるので、家族が多い世帯ほど任意継続が有利に傾きます。国保は世帯人数ぶん均等割が増えるため、ここで差が開きます。
任意継続の申請期限は退職日の翌日から20日以内

任意継続の申請期限は退職日の翌日から20日以内。1日でも過ぎると資格を失い、遡って加入することもできません。健康保険の手続きで一番怖い期限です。
任意継続でもっとも事故が多いのが、この申請期限の取りこぼしです。任意継続の申請は、退職日の翌日から20日以内に保険者へ届け出る必要があります。
この20日は土日祝を含めた暦日でカウントされ、原則として1日でも過ぎると任意継続被保険者になる資格を失います。しかも、あとから「やっぱり任意継続にしたい」と言っても遡って加入することはできません。
失業保険や年金の手続きは多少遅れても挽回が効きますが、任意継続だけは20日を過ぎた瞬間に選択肢から消えると考えてください。
退職前後は離職票の到着待ち、転職活動、引っ越しなどが重なり、気づけば20日が過ぎていたという相談を毎年のように受けます。
退職日が決まったら、まず手帳やスマホのカレンダーに「退職日の翌日から数えて20日後」を赤で入れておくのが現実的な防衛策です。
手続きそのものは申請書1枚と本人確認で済むので、迷っているならいったん任意継続を申請し、後から国保のほうが安いと分かれば2022年改正後の途中脱退で切り替える、という順番が安全です。
⚠️ 注意
20日の起算日は「退職日」ではなく「退職日の翌日」です。3月31日退職なら4月1日が1日目で、4月20日が20日目にあたります。
ここを1日ずらして数えて期限を落とす人がいるので、必ず保険者の案内で起算日を確認してください。協会けんぽや各健康保険組合の窓口に電話すれば、自分の退職日からの正確な締切日を教えてくれます。
国民健康保険の保険料は前年所得で決まる
国民健康保険の保険料は前年の所得と世帯人数で決まり、自治体ごとに金額が違います。前年所得が低い人ほど安くなり、退職1年目より2年目のほうが下がる傾向です。
国民健康保険(国保)は、市区町村が運営する公的医療保険です。保険料は前年の所得をもとに計算する「所得割」と、世帯の加入人数に応じてかかる「均等割」などを組み合わせて決まります。
ここが任意継続との決定的な違いで、国保は前年の収入が高かった人ほど、退職した年の保険料が高くなります。退職1年目は前年(在職してフルに稼いでいた年)の所得で計算されるため割高になりやすく、無職や低収入が続いた退職2年目には所得割が下がって安くなる、という動きをします。
金額は自治体ごとに大きく異なります。同じ前年所得・同じ家族構成でも、住んでいる市区町村が違えば国保の年額は数万円単位でずれます。
さらに自治体ごとに独自の軽減制度や減免の窓口があるため、「国保はいくらになるか」はネットの相場記事では確定できません。
お住まいの市区町村役場の国保担当に電話して、自分の前年所得と世帯人数を伝えれば、その場でおおよその金額を試算してもらえます。任意継続との比較は、この実額を取ってからが本番です。
世帯人数が増えるほど均等割で割高になる
国保には扶養という概念がありません。任意継続なら配偶者や子を保険料負担なしで扶養に入れられますが、国保では世帯に加入する一人ひとりに均等割がかかります。
専業主婦(主夫)の配偶者と子ども2人を抱える4人世帯なら、4人分の均等割が積み上がります。これが、扶養家族が多い人ほど任意継続が有利になりやすい理由です。
逆に単身者で前年所得が低ければ、均等割の負担が軽く、国保のほうが安くなることが多くなります。
会社都合退職なら国保が大幅に安くなる軽減制度
会社都合などで離職した特定受給資格者・特定理由離職者は、国保で前年の給与所得を100分の30とみなして計算する軽減を受けられます。これだけで国保が任意継続を逆転することがあります。
ここが多くの人が見落とす、いちばん効く論点です。倒産や解雇、雇い止めなど会社都合に近い理由で退職した人(特定受給資格者・特定理由離職者)は、国民健康保険の保険料を計算するとき、前年の給与所得を100分の30、つまり3割とみなして算定する軽減を受けられます。
前年に400万円の給与所得があった人でも、軽減が効けば120万円相当として保険料が計算されるため、国保が一気に安くなります。前年所得が高くて「任意継続のほうが安いはず」と思っていた人が、この軽減で国保に逆転されるケースは珍しくありません。
軽減の対象になるかどうかは、ハローワークで交付される雇用保険受給資格者証(またはそれに準じる書類)の離職理由コードで判定されます。会社都合や正当な理由のある自己都合に該当する離職理由コードであれば、市区町村の国保窓口でこの軽減を申請できます。
自己都合退職の人すべてが使えるわけではなく、あくまで特定受給資格者・特定理由離職者に限られる点は押さえてください。
自分が対象かどうかは、失業保険の手続きでハローワークが判定する離職理由を確認すればわかります。離職理由のコードと失業保険の関係は失業保険の受給条件と金額の決まり方でも触れています。
✅ 成功のコツ
会社都合に近い形で辞めた人は、任意継続を申請する前に、必ず先に国保の軽減後の金額を市区町村窓口で確認してください。
軽減を知らないまま任意継続を選び、あとで国保のほうが大幅に安かったと判明する人が一定数います。順番は「会社都合かどうかを確認」が先、「任意継続か国保か」はその後です。
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退職後の健康保険、任意継続と国保どっちが得かの分岐

一律にどちらが得かは決まりません。前年所得の高さ・扶養家族の人数・会社都合か自己都合かの3点で逆転します。必ず両方の実額を取って比べてください。
「結局どっちが安いのか」を一言で答えられない理由は、得になる条件が人によって正反対だからです。
任意継続と国保のどちらが安いかは、前年所得・扶養家族・退職理由の3つで決まります。この3点を自分のケースに当てはめると、おおよその傾向が見えてきます。
| あなたの状況 | 有利になりやすい選択肢 | 理由 |
|---|---|---|
| 前年所得が高く、扶養家族が多い | 任意継続 | 保険料に上限があり、扶養家族を負担なしで入れられる |
| 前年所得が低く、単身 | 国民健康保険 | 所得割が小さく、均等割も一人分で済む |
| 会社都合・特定理由で離職した | 国民健康保険(軽減適用) | 前年給与所得を100分の30とみなす軽減が効く |
| 当面は働かず、収入見込みが要件内 | 家族の被扶養者 | 保険料0円で済む |
この表はあくまで傾向です。境界線にいる人ほど、実際に計算してみないと逆転します。たとえば前年所得が中くらいで扶養家族が1人いる人は、任意継続の保険料と、軽減なしの国保の保険料が数千円差で並ぶことがあります。
こういうときは、わずかな差でも2年間積み上げれば数万円になるので、面倒でも両方の実額を取って比べる価値があります。
電話2本で両方の金額を確定させる手順

比較は意外と簡単で、電話2本で済みます。1本目は、在職中に加入していた健康保険の保険者(協会けんぽの都道府県支部、または会社の健康保険組合)に「任意継続にした場合の月額保険料はいくらか」を聞きます。
退職日の標準報酬月額が分かれば即答してもらえることが多いです。2本目は、お住まいの市区町村役場の国民健康保険担当に「前年所得◯◯円、世帯◯人で国保はいくらになるか。会社都合の軽減は使えるか」を聞きます。この2つの金額を並べれば、自分のケースでどちらが得かは一目で分かります。
- 保険者(協会けんぽ・健保組合)へ電話し、任意継続の月額保険料を確認する
- 市区町村の国保窓口へ電話し、前年所得と世帯人数を伝えて国保の年額を試算してもらう
- 会社都合・特定理由なら、国保の軽減後の金額も同時に出してもらう
- 任意継続(2年分)と国保(1年目・2年目)を並べ、扶養家族の有無も加味して安いほうを選ぶ
- 任意継続にする場合は、退職日の翌日から20日以内に申請を完了させる
💡 ポイント
国保は退職1年目と2年目で金額が変わるので、2年通算で考えるのがコツです。1年目は前年所得が高くて国保が割高でも、2年目は所得が下がって国保が大幅に安くなることがあります。
2022年改正で任意継続の途中脱退ができるようになったので、「1年目は任意継続で上限に抑え、2年目に国保へ切り替える」という組み合わせが最適になる人もいます。
第3の選択肢「家族の被扶養者になる」で保険料0円
配偶者や親が会社員なら、その被扶養者になれば健康保険料は0円です。収入要件を満たすかどうかが分岐で、当面働かない人には最有力の選択肢になります。
任意継続と国保の比較に夢中になって、いちばん安い選択肢を見落とす人がいます。配偶者や親が会社員として健康保険に入っているなら、その被扶養者(扶養家族)になれば、あなた自身の健康保険料は0円になります。
被扶養者には保険料がかからないため、当面は働かない、あるいは収入が低い見込みなら、これがもっとも負担の軽い選択肢です。任意継続で月3万円払うか、被扶養者で0円かは、年間で30万円以上の差になります。
ただし誰でも入れるわけではなく、収入要件があります。被扶養者として認定されるには、退職後の見込み年収が一定額以下であることが必要で、失業保険(雇用保険の基本手当)を受給している期間は、日額によって被扶養者になれないことがあります。
失業保険の日額が一定基準を超えると、受給中は収入があるとみなされ、扶養から外れる扱いになるためです。
失業保険を受けながら扶養に入れるかどうかは、扶養に入れてもらう側(配偶者や親)が加入している健康保険組合・協会けんぽの基準によるので、その保険者に直接確認してください。失業保険の日額の決まり方は失業保険の受給条件と金額の決まり方にまとめています。
⚠️ 注意
被扶養者になる場合は、扶養に入れてもらう家族の勤務先を通じて手続きをします。退職日の翌日に空白を作らないためには、退職前に家族の会社の総務へ「退職するので扶養に入れてもらえるか、必要書類は何か」を確認しておくのが安全です。
認定には離職票や退職証明、収入見込みの書類が必要になることが多く、書類が揃わないと空白期間が生まれます。
退職後の健康保険でよくある質問
まとめ:退職後の健康保険は電話2本で損得が決まる
退職後の健康保険は、任意継続・国民健康保険・家族の被扶養者・次の会社で加入の4択です。どれが得かは前年所得の高さ、扶養家族の人数、会社都合か自己都合かの3点で逆転するため、一律の正解はありません。前年所得が高く扶養家族が多い人は保険料に上限のある任意継続、前年所得が低い単身者や会社都合で離職した人は軽減の効く国民健康保険が有利になりやすい、という傾向だけ覚えておけば十分です。あとは両方の実額を取れば答えは出ます。
今日やるべきことは2つです。1つは、任意継続を選ぶ可能性があるなら、退職日の翌日から20日後をカレンダーに赤で入れること。この期限を逃すと任意継続は二度と選べません。もう1つは、加入していた健康保険の保険者と市区町村の国保窓口へ電話して、任意継続と国保それぞれの金額を出してもらうこと。会社都合に近い離職なら、国保の軽減後の金額も忘れず聞いてください。この電話2本で、2年間で数万円から十数万円の損得が確定します。
健康保険が片づけば、退職後マネーの穴はほぼ埋まります。失業保険・退職金・有給消化・90日タイムラインと合わせて、辞めたあとに損する要素を一つずつ潰していけば、次の一歩に集中できる状態が作れます。退職は終わりではなく、条件のいい次の場所へ動くための準備期間です。お金の不安を先に消して、落ち着いて次のキャリアを選んでください。
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biz-reference.jp 編集部(採用コンサル14年)
採用コンサルティング業務歴14年。80社の求人原稿制作、累計3000人の面接、年間500人の応募者対応、年間300人の面接実施(継続中)。退職前後の相談を数多く受けるなかで蓄積した「応募者にしか書けない採用側の本音と、辞めたあとに損しない実務」を一次情報として発信しています。
- 採用コンサルティング業務歴14年
- 累計80社の求人原稿制作
- 累計3000人の面接実施
- 年間500人の応募者対応(継続中)
- 年間300人の面接実施(継続中)
※本記事は社会保険制度の一般的な情報をまとめたものです。保険料の金額や軽減・扶養の要件は加入する保険者や市区町村、個別の状況によって異なります。具体的な金額や適用可否は、加入している健康保険の保険者・お住まいの市区町村の国保窓口・年金事務所などの公的窓口で必ずご確認ください。制度の詳細は厚生労働省、健康保険の任意継続は全国健康保険協会(協会けんぽ)の案内をご参照ください。